今回の条例改正にあたり、旧来の条例がどんなもので改正によってどの点が変更されたかを正しく知ることが何より重要なので、まずは現在施行されている元の条例を読みといてみる。

これはあくまで改正前の条例であることに注意。

改正前の条例は下のリンクから確認できる。

条例を章ごとに集約して可読性を若干高めたのがこれ(開くにはxmindが必要)

条例に出てくる用語

法文では出てくる単語に独自の定義をしていて、これを一般的な用語と読んでしまうとそもそもの話が咬み合わなくなってしまうので、用語をちゃんと整理して覚えておくのが大前提になる。

この条例の中で定義されている用語を書きだしてみた。

サイズがクソでかいのでダウンロードしてビューアーで見るがいいかも。

今回の騒動で関係するものを書きだすと

  • 青少年
    18歳未満のもの
  • 保護者
    親権を行う者、後見人その他の者で青少年を現に保護監督するもの
  • 図書類
    販売、頒布、閲覧、観覧に供する目的をもって作成された、書籍、雑誌、文書、図面、写真、ビデオテープ、ビデオディスク、コンピュータソフトの入ったCDなどの記録媒体、映写用のフィルムやスライドフィルム
  • 図書類発行業者
    図書類の発行を業とする者。いわゆる出版社
  • 図書類販売業者等
    図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者
    要するに図書類で挙げたものを売る会社やその従業員

といったとこか。指定図書類なんかは後で触れる。

条例の構成

東京都青少年育成条例は次のように章立てて構成されている。

  • 前文
  • 第一章 総則(第一条―第四条の三)
    この条例の理念や考え方、それに知事や都民の責務について
  • 第二章 優良図書類等の推奨及び表彰(第五条・第六条)
  • 第三章 不健全な図書類等の販売等の規制(第七条―第十八条の二)
  • 第三章の二 青少年の性に関する健全な判断能力の育成(第十八条の三―第十八条の六)
  • 第三章の三 インターネット利用環境の整備(第十八条の七―第十八条の九)
  • 第四章 東京都青少年健全育成審議会(第十九条―第二十四条の二)
  • 第五章 罰則(第二十四条の三―第三十条)
  • 第六章 雑則(第三十一条)

これらの条文はそれぞれが複雑にリンクしているので、特定の条文だけで判断すると読み違えるので通読しておく必要がある。
個々の条文については以下個別に触れる。

前文

われら都民は、次代の社会をになうべき青少年が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものである。
われら都民は、家庭及び勤労の場所その他の社会における正しい指導が、青少年の人格の形成に寄与するところきわめて大なることを銘記しなければならない。
われら都民は、心身ともに健全な青少年を育成する責務を有することを深く自覚し、青少年もまた社会の成員としての自覚と責任をもつて生活を律するように努めなければならない。

前文では

われら都民は、次代の社会をになうべき青少年が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものである。

という目標に対する都民の義務として、

  • 青少年の人格形成には大人の正しい指導が必要だと覚えておく
  • 大人は青少年を健全に育成する責任がある
  • 青少年は社会の成員として生活を律する努力をする

を挙げている。

以下の条文ではこの目標の為の具体的な方策が記述されている。

第一章 総則(第一条―第四条の三)

一部要約したのがこれ。

第一章では目的、定義、条例適用時の注意、都の責務、保護者の責務、都民の申し出について書かれている。

目的は前文と同様、定義は前述なので割愛。

適用上の注意として

  • この条例は健全な青少年の育成という目的を逸脱して濫用してはならない(第三条)
  • この条例を適用する場合、青少年の人権に尊重しなければならない。(第三条のニ)
  • この条例を適用する場合、青少年の精神的、身体的な特徴に留意しなければならない。(第三条のニ)

としてる。
平たく言えば「目的外使用の禁止」「相手が子供だってのを忘れるな」といったとこか。

東京都の責務としては

  • 都は、青少年を健全に育成するために必要な施策を行う(第四条)
  • このために必要な体制を作る(第四条 2項)
  • 東京都下の市町村や公的機関が行う(この条例の目的にかなう)事業に指導、助成する努力をしなさい(第四条 3項)
  • 都知事はこの条例でどんなことをしたのか毎年発表しなさい(第四条 4項)

といったあたり。あとに続く施策の裏付けみたいなもんか。

保護者の責務では

  • 子供がちゃんと健全に育つように努力しなさい(第四条の二)
  • 関連する行政機関から虐待などで指導された時はそれに従いなさい。(第四条の二 2項)

としている。当たり前のことばかり。

あと別項として都民はこの条例について都知事に陳情できる(第四条の三)としてる。

第二章 優良図書類等の推奨及び表彰(第五条・第六条)

東京都が青少年の健全な育成に資すると思う本や映画などを推奨したり表彰したりできるといったもの。
どんなものが推奨されているかは東京都青少年健全育成審議会の答申で見られる。
(審議会や不健全図書については後述するのでひとまず無視)

第三章 不健全な図書類等の販売等の規制 (第七条―第十八条の二)

超大作すぎる( ´Д`)=3
自販機に関する許認可のあたりは割愛。

あまりにも大きすぎるのでセクションを次の3つに分割する。

  1. 規制の対象となる物品
  2. 規制の対象となる行為
  3. 行政の取り組み

1.規制の対象となる物品

この条例では青少年に対して販売、閲覧等を避けるべき物品として次の4つを挙げている

  • 図書類
  • 映画・演劇等
  • 特定玩具(大人のおもちゃ、アダルトグッズなど)
  • 刃物

それぞれの商品についてはおおよそ「規制の対象について」「自主規制」「青少年からの隔離」というカテゴリーで規定されている。

条例の構造としてはまず業界の自主規制に任せそこから漏れたものを都が知事の名で規制する、という形になっているのがわかる。

図書類に絞ってみれば、都知事の指定した指定図書は「都の指定した成人指定(18禁)」であり、自主規制団体の行う成人指定と同じ扱いをしなければならない。というよりも、自主規制団体の行う成人指定と同じ扱いをさせる事しか出来ないため、既に成人指定されている図書類をあえて指定図書とする意味が無い。
よって、指定図書類の制度そのものが自主規制による規制から漏れているものをきちんと成人指定する為の制度であると言える。

その規制の対象となる物品はおおよそ

性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある

という表現で包括的に指定している。
これは正しい判断が大人よりも難しい蓋然性の高い青少年に対し、性行為や自殺、犯罪行為に近づけるような情報・物品を安易に渡すべきではないという考えに基づいているように思う。

そして、これらの物品に対しては

  • 青少年に対する販売・譲渡の禁止
  • 青少年が誤って手にしないためのレーティングとゾーニング
  • 青少年が所持しないよう周囲の働きかけ

を求めている。

2.規制の対象となる行為

この条例では青少年に対する以下の行為を禁じている

  • 質屋や古物商での取引
  • ブルセラ行為
  • ブルセラや風俗への勧誘
  • ホストクラブやキャバクラへの客引き
  • 深夜外出、および外出させる行為
  • 深夜営業の歓楽施設への入場
  • 青少年に有害な広告の設置

まぁ言ってみれば当たり前のことばかり。

3.行政の取り組み

これらの規制が正しく行われるための行政の取り組みとして以下のものが挙げられている。

  • 書店や映画館への立ち入り調査
  • 質屋や古物商、風俗店などへの立ち入り調査
  • 規定に違反した者に対する警告

立ち入り調査は第十七条4項で「第一項及び第二項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」 とされているので、警察における捜査権とは違い強制力の無い任意の立ち入り調査であると思われます。
ただし、これを拒んだり妨げたりした場合、後述の第二十六条の二2項で20万円以下の罰金が課されますのであしからず。

第三章の二 青少年の性に関する健全な判断能力の育成(第十八条の三―第十八条の六)

  • 青少年とセックスするな
  • 青少年を安易にセックスさせるな

以上。

(;´д`) ・・・いや、だってほんとにコレ以外書いてないんだもん

第三章の三 インターネット利用環境の整備(第十八条の七―第十八条の九)

ネットのフィルタリングに関するセクション。

  • プロバイダはフィルタリングできるよう努力せよ
  • 利用者と契約するときにはフィルタリングの存在を告知しなさい
  • ネットカフェでもフィルタリングできるよう努力せよ
  • 都は青少年のネット利用に関連して教育・啓蒙の施策に努める
  • 家庭でもきちんと教育しなさい

といったあたり。

全て努力目標なのが救いというかなんというか。

第四章 東京都青少年健全育成審議会(第十九条―第二十四条の二)

この手の条例、法律で割とよくある形の審議会。
最大で20人てのは割と多い方だと思う。

構成メンバーが

  • 業界から3人以内
  • 青少年の保護者3人以内
  • 学識経験者 8人以内
  • 関係行政機関の職員 3人以内
  • 東京都職員 3人以内

となっている。
直接の利害関係者である業界と保護者の意見対立を学識経験者と行政機関職員、都職員でバランスするといった意図か。

現在の構成メンバーはここで見ることができる。

議事録も公開されているので目を通してみるといいと思う。
かなり真面目に審議をしている様子がわかる。

第五章 罰則(第二十四条の三―第三十条)

第二十四条の三以外はおおよそ販売、サービス提供側に課されている。
特に行政指導や警告に従わなかった業者に対するペナルティが重めに設定されているように見える。

第六章 雑則(第三十一条)

この条例以外に東京都規則で定める ってだけ。
図もいらんな。

まとめ

以上ここまでが現在施行済みの条例である。
これを下敷きに、今回どのような改正がなされたかを知らなければ、今回の改正について正しく判断することは決して出来ないのでまずはこれを頭に叩き込みましょう。